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2019/12/08

再びこの圧巻を、ぜひ。/邦訳『息吹』発売

 ついに発売になりましたね。新刊"Exhalation"の邦訳版『息吹』。おめでとうございます。予約していた本も無事12/5に届きました。


ペーパーバック、kindle版と共に記念撮影しました。ああやっと!


巨大なオビで、バラク・オバマさんの推薦文まであるのにびっくりです。な、なんかすごいなあ……私なんかが読んでいいのかしらん。(^ ^;)

でもこれ、難しい本だと誤解されませんか? 私にはひたすら美しい物語が詰まってる本に見えます。 多くの方がこの美しい圧巻を体験できますように。そしてリアルタイムでこういう作家さんの新作を読める特権を、しみじみと噛みしめたいです。

…それはそうと、発売即日に増刷が決まったそうで。すごいなあ……じつはリアルで顔を合わせられる範囲ではチャンさんの本を読んでる人がいない環境に生きているので、よくある言い方をすれば「人の足跡を見つけたロビンソン・クルーソー」の気分――足跡どころじゃなくて、「丹沢の山を歩いてたら突然シャングリラを見つけた」みたいな気分です。(笑)盛り上がりの記録として、版元さんのツイートを貼らせていただきます。


 

今回は『あなたの人生の物語』と違ってハードカバーなので、冊数自体が抑えてあったのかな……なんてことも頭をよぎったのですが、そんな勘繰りは野暮ですね。(笑)とにかくおめでたいです!

…で、自分はというと……前回書いた通り、まだ原書の最後の"Anxiety is the Dizziness of Freedom"を読んでる最中です。かつコミケの準備中(^ ^;)なので、邦訳で答え合わせ(?)するのはしばらく先になりそうです。あと、やはり前回書いたSFマガジンの特集号に入っていた別のコンテンツも、以前ネットで拾ったまま読めずにいたものだと気づきました。なので、こちらもまずは自力で解釈をしてから邦訳を拝読しようと思い、読むのはやめました。そんなわけで、特集号も邦訳もまったく手つかずなのです。でも、これからまた待ち時間は長いですしね。(笑)ゆっくりじっくり味わいたいと思います❤
(最後の一本以外の感想は、前回の記事にリンク集の形でまとめております)

 

余談ですが、さっきアマゾンの商品ページを見に行ったら、英米文学の第3位、となっていたので、1位と2位はなんだろう?と見に行ったら……。
2位はこの『息吹』のkindle版、そして1位は『シャーロック・ホームズの冒険』でした。なるほど!

自分が大好きなものがベストスリーを席巻しているなんて、なかなかお目にかかれない絶景でありました。


2019/11/14

(遅ればせながら)祝・新刊"Exhalation"発売/"Omphalos"他感想 +邦訳版『息吹』予約受付中!

 【アップ直前の追記】

購入から半年近く経ってようやく感想をアップという今日になって、SFマガジンのチャンさん特集号10/25に発売になっていたことを知りました!しかも新刊収録新作のうちの一つを掲載!ひーん!Amazonではたびたびチャンさんの名前で検索していたのにまったく引っかかってこなかった…!(今でも「SFマガジン」で検索しないと出ない!)

ひとえに私事のための怠慢なのですが、この記事自体書いてから数か月経っておりまして、邦訳版の予約受け付けが始まっていたので追加修正したものです。これ以上書き直していると邦訳新刊そのものが出てしまうので、いろいろ今さらな表現が散見されますがこのままアップさせていただきます。(ぶっちゃけコミケ準備中でしてあまり余裕がなく…!(^^;))というわけで、内容は原書しか見てないときに書いたものなのでご了承くださいませ。

それはさておき、上記のSFマガジンは""Exhalation"収録作のチラ見せ(笑)以外にインタビューや新刊未収録作の翻訳も載るようなので、先ほど注文してきました♪(^^) 

それでは以下感想です。

*       *       *

 

とてもとても遅くなりましたが、待ちに待ったチャンさんの新刊"Exhalation"、今年5月に発売されました。 ばんざい!\(^_^)/


装丁はハードカバーのものが好きなんですけど、
持ち歩けるようペーパーバックを買いました。
でも結局これでもかさばるので、最近kindle版も買いました。
 日本の文庫本てなんてありがたいんでしょう。(笑)


"Stories of Your Life and Others"より後に発表済の作品が収録されたほか、初出が"Omphalos"と"Anxiety is the Dizziness of Freedom"の2作あります。うれしい♪

 

どうせなら感想もつけて……と思ううちに私事でどんどん遅くなりまして、こんな時期になってしまいました。以下は初公開2作のうち"Omphalos"の感想と、ほかの作品を含めた目次(+ご紹介時の過去記事リンク)です。("Anxiety..."は現在まだ読んでいます。先に邦訳が出ちゃうかもですね)

 

"Omphalos"感想

私たちが現在「科学的」としている説とは違う世界観の上に、「科学」が構築されている世界の物語。あくまで「科学的」であろうとする主人公は、女性の考古学者で敬虔な信仰を持っています。彼女の独白は「主よ (Lord,) 」で始まり、彼らが立脚する世界観を揺るがす遺物の存在に直面し、葛藤を告白する形でつづられます。

この世界観が分かっていくところがキモなので、(これから読まれる方の目に触れることを想定して)そこを詳しく書くことは控えます。ぜひ本編で味わってください。

物語は間違いなく人間の世界の物語ですが、シカゴ(Chicago)らしき地名が「シカゴゥ(Chicagow)」とかなっていて――辞書にはないし造語だと思います――私たちの世界との差が微妙なズレにとどまっているので、いわゆる平行世界とも解釈できます。抽象的なアナロジーとしてイメージが広がります。そのへんを読む側が広げていけるのも作品の醍醐味ですね。

冒頭のシーンでは、また「女性が男性の名前で書いてるんでは」と誤解しそうなくらいリアルな感情がさらっと描かれてました。(最初ご本人を知らずに『あなたの人生の物語』を読んだとき、やはり同じことを感じたんですよねー…)

シカゴゥは女が一人で旅するようなところじゃない、とか言われて、私はモンゴリアも旅したし、シカゴゥがあそこよりひどいとは思わない、と言い返したあと、そんなヒステリックな反応をしたことについて神に赦しを乞うんです。(これは本心から反省しているというより、苛立ちの大きさを反語的に表現しているように見えます)……こういう体験や苛立ち、特に女性は共有・共感する方が多いと思います。自分もそうです。

感動的なのは、彼女が「新しい事実」に対峙する姿勢の変化。そして終盤出てくる独白から、奇妙なことに、彼女たちを私たちとは別の、ある種の「生命」と重ねてイメージしました。これも、これから読む方のイメージに影響を与えたくないので書くのは控えます。そうなると書けることがあまりないですね。(笑)でも感動的なのは確かです!

印象的な一節を、(ネタばれにならならい範囲で)拙訳で少しだけご紹介させていただきます。

――私は想像してみた。どんな気持ちだろう。完全な身体(かたち)を与えられて目覚め、特定の技術を持ちながら思い出す過去はなく、まるで記憶喪失者のように、見覚えのない世界で途方に暮れるのは。私には恐ろしく思える。私がこの数週間に体験したことより、ずっと恐ろしい。

チャン氏はよく、サイエンス・フィクションとファンタジーをきちんと区別するのですが、私にはむしろファンタジーの範疇にも見える世界観で、その意味では『七十二文字』や『地獄とは神の不在なり』と似ているかもしれません。

一番最後の独白がやはり感動的で(これぞ「テッド・チャン節」!)、独特の「開けていく」感じ、解放されていく感じがありました。その感覚は物語の中のものではなくて、読んでいる自分が感じるものです。自分が解放されるのです。解釈の変化によって世界が変わる瞬間を、読む側も違う形で共有します。

タイトルになっているomphalosの意味は、辞書で見ると「へそ」や「中心」。もとはギリシャのデルフォイ神殿にある「世界の中心の石」のことだそうです。そこを踏まえると、このタイトルは重層的な意味を持ちます。どう訳されるのか楽しみです。(いろいろ考えて楽しんでいるのですが、ニュアンスを余さず表現するのは難しそう!)

日本に住んでいて特定の宗教なり学問なりの信条など希薄な自分には、この「信念の基盤が揺らぐ恐ろしさ」は想像しにくいとも感じます。それなりに自分にもあるのでしょうが、それを守るために戦った経験もなく、特に意識することがありません。チャン氏の別の作品で言えば、『ゼロで割る』の主人公が、数学の無謬性を覆す事実を知ってしまったことから陥る絶望も同じです。自分には想像するしかありません。ただ、特定のそれを共有しなくとも、自分ものとして感情移入できるものがありました。いやはや、やはりファンの期待を裏切らないですね。毎度のことですがテッド・チャン健在なり。嬉しかったです❤ (^ ^)

 

*       *       *

 

目次は以下の通り。今回初収録の作品以外は、以前書いた感想やご紹介などの記事へのリンクを添えました。
すでに邦題のあるものはカッコでつけています。

The Merchant and the Alchemist's Gate (『商人と錬金術師の門』)
  SFマガジン テッド・チャン特集 感想 (2007/11/24)

Exhalation (『息吹』)
  
『Exhalation』 感想 (2009/2/21)
  この圧巻を、ぜひ。/テッド・チャン『息吹』 (2009/11/25)
  (SFマガジンへの邦訳掲載時のもの※もとは日記に書いてしまったのでそちらの該当箇所へリンクしていましたが、Blogger引っ越しに伴いBlogger内に掲載しました)
  SF大会展示ページにチャン氏よりのコメントを掲載(2010/9/2)
  (作品をテーマにさせていただいた生け花展示写真と解説の再掲、展示用にチャン氏よりいただいたコメントなど)

What's Expected of Us (『予期される未来』)
  SFマガジン テッド・チャン特集 感想 (2007/11/24)
 BuzzFeed寄稿記事と対談ビデオ (2018/1/19)
 (記事の内容にからめて、邦訳で読んでいたのを忘れ原文で読み直した感想を書いています(^^;))

The Lifecycle of Software Objects (『ソフトウェア・オブジェクトのライフサイクル』)
 "The lifecycle of software objects"感想 (2010/12/12)

Dacey's Patent Automatic Nanny 
  ヴィクトリアンな機械の乳母 "Dacey's Patent Automatic Nanny" (2011/11/26)

The Truth of Fact, the Truth of Feeling
  新作"The Truth of Fact, the Truth of Feeling" (2013/8/30) (リンクのみ)

The Great Silence
  The Great Silence (2015/5/20)

Omphalos

Anxiety Is the Dizziness of Freedom

 

*       *       *

 

さて、この記事もいじりだしてからかなり経ってしまったのですが、そうこうしているうちに日本語版が予約受付中に!嬉しい!

息吹(amazon)

現在まだ書影はないようです。絵が入ったら上のリンクも反映されるかな…? 

今回は文庫でなく単行本なんですね。 どうやらomphalosはカタカナ処理になったようです。うーん、その手があったか……!(笑)

余談ですが、"Exhalation"の邦訳の「息吹」という言葉、個人的には先に原語で読んだときに得たイメージとは違うんです。これはSFマガジンで初出のときから感じてたんですけど、じゃあどうすればいいと思うのかというと思いつかなくて……難しいですねえ。翻訳者さんも悩まれたんだろうな。ダイレクトに「肺」から吐く「呼気」のイメージなんですけど、「呼気」ってのもイマイチですしねえ……。まあ末長く考えてスルメのように楽しむことにします。(笑)

…ともあれ、邦訳版も実物を見るのが楽しみ。答え合わせの前に原書の最後の一本を読み終えなくちゃ!です❤

2019/10/26

The Great Silenceと講演ビデオ (2019/10/26)

 書きかけのままアップできていなかったビデオの記録です。チャンさんがコラボしたビデオアート作品、The Great Silenceの本編動画と、チャンさんによる講演動画を見つけたので……。じつは見つけたのは昨年9月、記事を書きかけたのは11月です。ああう。きちんと見て要約を書く時間がなかなか取れないうちに新刊も出て数か月経ってしまい、ぶっちゃけそちらの記事を上げたいので(^^;)こちらは取り急ぎ動画だけ貼っておきます。

一本目はAllora & Calzadillaというアーティストによるビデオインスタレーションで、The Great Silenceはこれに添えるテキストとして書かれました。

初見時のご紹介と感想はこちらです。
The Great Silence (2015/5/20)
当時はビデオそのものはネットでは見られなかったのですが、作品の背景なども調べた範囲で書いているので、よかったら合わせてどうぞ。


※引っ越し時追記:
bloggerへの転載時には非公開になっておりました💦

 

2本目は、2018/5/28にロンドン動物園で開催された、動物と言語についてのシンポジウムでの講演。上記のビデオインスタレーションも上映されたようです。


動物も言語的なコミュニケーションはするけれど、それらと異なる人間の言語の特徴は「目の前にないもの」に言及できることだ、という言語学者の指摘を紹介し、たとえばサルは「昨日のあのヒョウはどうしたかな?」なんて会話はしないはず……と笑いを取っておられます。作品のイメージからは意外ですが、レクチャーではときどきお茶目なこともおっしゃいますね。(笑)

聞き取り難民なので自動生成字幕に頼りつつですが、メモは大量にとってあるので整理する時間がとれたら追加しま……したいです。(^^;)

The Great Silenceはたしかにビデオとのコラボなんですが、単品で読んでもこれぞ「テッド・チャン節」!という感じで大好きな一本です。初出はネットで読み、その後単品で販売されていたkindle版も購入してしまいました。
今回新刊 の "Exhalation"に収録されたので、興味を持つ方は多いビデオだと思います。