2011/11/26

ヴィクトリアンな機械の乳母 "Dacey's Patent Automatic Nanny"

 くう、これはGoogle alertは拾ってくれませんでした。たまたまツイッターで検索かけて知りました。今年の七月に出ていたアンソロジー"The Thackery T. Lambshead Cabinet of Curiosities: Exhibits, Oddities, Images, and Stories from Top Authors and Artists "に収録されている作品です。
(すぐ読みたい方はKindle Edition をどうぞ!kindleがなくとも無料アプリをダウンロードしてPC等で読めます。購入ボタンのエリアにある"available on your PC"から説明が読めます)

本全体が、架空のDr. Thackery T. Lambsheadなるイギリス人の死後に遺された、奇妙なコレクションをご開帳・・・という趣向のようです。テッド・チャンの名前だけで買っちゃいましたが、本全体が面白い仕掛けみたいです。文章作品だけじゃなくてアートもたくさんありました。チャン氏以外に私でもわかるところでは、コミック関連で『リーグ・オブ・エクストラオーディナリー・ジェントルメン』『ウォッチメン』などのアラン・ムーアや、『ヘルボーイ』のマイク・ミニョーラの名前も!

自分はKindleで読んだんですが、アートを堪能するには、Kindle本体よりKindle for PCとか画面の大きいデバイスで見たほうがいいかもしれません。自分もこれからPCで見るつもりです。もちろんハードカバーの実物だともっといいでしょうけれど・・・(マウスオーバー辞書に慣れて紙の洋書にはなかなか手が出なくなりました・・・(^^;))

チャン氏の作品は"Dacey's Patent Automatic Nanny"。十九世紀末~二十世紀始めのイギリスでの珍発明にまつわる物語でした。レトロに『デイシーの機械仕掛けの乳母』・・・とでも訳したらいいでしょうか。コレクションの由来の解説という趣向なので、クレジットは"documented by Ted Chiang"。しかもオハイオの国立心理学博物館で開かれた展覧会のカタログから、となっています。挿画として、Automatic Nanny発売当時の広告なるものまで載っています。これが「いかにも」な出来ばえ!遊びが凝ってます!(笑)

・・・なぜこれが発明されたのか、そしてどんな経緯でDr. Lambsheadのコレクションに加わったのか・・・という物語で、短いおかげもあって、スッと引き込まれて読めました。"The Lifecycle of software objects"に引き続き子育てネタ(?)でした。(と簡単に言い切れるものでもないですが)

ショート作品ですがジワンと余韻がありました。前回ご紹介した記事で書かれていた、科学の巨視的なテーマと人間の個人レベルのテーマは、両方一つの作品で扱うことができる、という主張のモデルケースのような作品になっています。(チャン氏の作品はたいていみんなそうですね)

それと、前半
の描写がけっこうユーモラスに感じられたのが新鮮でした。テッド・チャンの作品を読んでて声出して笑ったのは初めて。(笑ったというか、何度か吹き出してしまいました)

いかにもヴィクトリアンな発明者の考え方とか、オートマチック乳母に投げられた子供の名前がナイジェル・ホーソーン(※)だったりとか…。途中までは「もしかして、初めて読むコミカルなテッド・チャン?」と思ったくらいです。(自分の勝手な読み違いだったらスミマセン。ここのところブリティッシュ・ジョークに触れる機会が多かったため、自分が勝手にそう感じただけで、ぜんぜんそういう意図はない描写なのかも・・・(笑))

英語の苦手な自分がすぐ読みきれちゃったくらい短いのですが、「人間への洞察」と「科学というプロセス」という二つのテーマが自然に解け合っていて、皮肉に走ることなく、大きな視野でありながら底にかすかな暖かみのある・・・いつものチャン氏の持ち味が充分楽しめました。ヴィクトリア朝もの(シャーロック・ホームズ)に浸かっていてテッド・チャンのファン、という身には二重に嬉しい趣向でもありました。

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ナイジェル・ホーソーン(Nigel Hawthorne: 1929-2001)は、イギリスの俳優です。アチラでは名優扱いですが、日本ではとくに有名でもないと思います。 今回はたまたま、個人的に今萌えている小ピット(18~19世紀のイギリス首相William Pitt)がらみで、ホーソーン主演の『英国万歳!』という映画にチェックを入れたところだったので、「高齢の名優」「機械の乳母に投げられる赤ちゃん」というイメージのギャップで吹き出してしまったのでした。(映画は日本ではDVDになってなくて、地団太踏んでるとこです!ルパート・グレイヴスも出ているらしくて、ああ見たいっ!(^^;))

2011/11/03

Introduction to "Particle Theory"

 Strange Horizonsという、SF・ファンタジー関連のアート、コラム、フィクションなどのコンテンツを無料で提供しているウェブサイトに、テッド・チャン氏が旧作紹介の文章を書いていました。リンクはこちらです。

Introduction to "Particle Theory" by Ted Chiang

作品はエドワード・ブライアント( Edward Bryant )という方の "Particle Theory"。1977年に出版された作品だそうです。本文もこのサイトでもちろん読めます。(紹介文のあとに本文へのリンクがあります)

紹介文を読んでみたら、興味がわきました。

それによると、SFの読者とメインストリームのフィクションの読者は、互いのジャンルを批難する…メインストリームのフィクションは私的なテーマ(たとえば「私は良い親になれるのか?」)にこだわりすぎるという理由で批難され、そしてSFは私的なテーマに注意を払わなすぎるという理由で批難される。

でも、SFが扱う(ことを期待されている)大きなテーマ…たとえば「帝国の崩壊」や「科学上の発見」…と、普通のフィクションで扱うことが期待されている私的なテーマ…たとえば「結婚の失敗」や「私は良い親になれるのか?」…は、決してジャンルにへばりついているものではない。両方を関連させて作品のなかで同時に扱うことは、難しいけれど可能。それをチャン氏はエドワード・ブライアントの作品から学んだ…と。
(かなりはしょった意訳なのでご容赦くださいね)

…ここで言われていることは、まさに自分がチャン氏の作品に感じる魅力の根幹であります。当然紹介されてる作品を読みたくなりました。…でも、小説を英語で読むのは自分には時間がかかりすぎるので、とりあえず和訳がないかと検索して…みたんですが…。

結局見つけることが出来なかったので、とりあえず英文で挑戦しようかと思います。ううー、嬉しいけど…嬉しいけど…(一日50時間くらいほしいデス…あと、集中力のスタミナも!(^ ^;))