2010/12/12

"The lifecycle of software objects"感想

 英語版のほうをようやく読了しました。

データアースという電子空間(セカンドライフみたいなもの?)で生きる、ディジエントと呼ばれるソフトウェア生命体の一人ジャックスと、彼を育成するアナという女性、アナの同僚デレク、デレクの所有しているディジエント、マルコとポーロ…を中心にした、バーチャル生命体と人間の関わり方に関する物語でした。

ディジエントは最初、見かけのかわいい、仮想空間で飼うペットのような位置づけで開発されますが、しだいにその存在が、アナやデレクにとっては人間並、あるいはそれ以上のものになっていきます。コンピューター業界の流行り廃りが彼らの周りの状況をどんどん変えていきます。

…正直にいいます。「…えっ、これで終わり?」と思いました…。(^ ^;)

バーチャル空間の生命体倫理と生身のユーザーのかかわり合い、というテーマでは、昔、内田美奈子さんのコミックで『BOOM TOWN』という傑作があったので、どうしても比べてしまい…。

それは別にしても、「アイデアと情緒の落としどころがぴったり一つになる」という、「いつものチャン節」は感じられなかったのが、ちょっと残念。じつは似たような感覚は、以前ほかのチャン作品でも味わったことがあります。『予想される未来』や『ゼロで割る』(最初に読んだとき)です。(ということは、『ゼロで割る』みたいに何か読み落としている可能性も…?)

英文なので読むのにちんたら時間かけすぎたのも原因かも…だとしたら自分のせいもありますね。

とはいえ、読んでる間はページごとに思考実験の連続という感じで、触発されるという意味ではてんこ盛りでした。ただ、それが大部分キャラクターたちの議論として提示されるのが、個人的には「まだ物語になってない」印象でした。アイデアがそのまま書かれているような部分が感じられて…シーンに構成されきってないというか?議論止まりで、出来事に至らないのです。自分が古い映画好きだからこう思うのかしら…。小説だとこれでもいいのかも。…でも、物足りなく思うのは実感なんですよね…。

(「チャン作品だから」と、期待しているレベルがもとから「普通より高い」ことは影響していると思います)

アメリカ人は法廷ドラマを好むそうですから、議論自体で楽しめるのかもしれないな、とは思います。けれど、自分はちょっと物足りなかったです。

それと、根本的なところで、設定に入り込めなかった部分もあります。ディジエントは「自分の意志を持っている生命体」として描写されています。それがどうして可能なのか、が、「ニューロブラスト・エンジン」というものに依存しているようなのですが、そのへんの具体的な説明がないので、イマイチイメージしにくい。でも「感情があるようにリアクションするようプログラムされているキャラクター」とは違う、ようなのです。ここらへんは有名なチューリング・テストをホーフツとさせる要素なのだと思いますが、それが要素のままに見えました。そこがなんというか、「まだあらすじ段階」みたいな印象です。SF小説では、こういう要素を本歌取り的に織り込むことで、充分喜んでくれる読者層がいる…ということは想像できるのですが。…いや、チャン作品だから、やっぱりそれ以上を期待しちゃうんですよね…勝手な期待ですが。

それと、描写を見る限り、データアースに入るユーザーはコンピューターのウインドウを通してそれを見ています。BOOM TOWNのような「感覚変換装置を通して、実際に空間内にいるように体験する」ものではない。後半では、その世界でディジエントに売春をさせるという可能性が提示されるのですが…それがどーもしっくりこない。このシステムを見る限り、たとえそれがなされたとしても、ユーザーは自分のアバターとバーチャル空間内のキャラクターがいちゃついてるのを「画面で見る」だけ、としか受け取れなかったのです。はたしてそんなもんにお金を払う人いるんだろうか?というレベルで素朴な疑問(?)が。

…物語のなかで問題にされてるのはユーザーのことではなく、あくまでディジエンツへの影響なんです。どーも、自分の目線がユーザー寄り、描かれていることはディジエンツ寄りという距離感が解消できなかった感じです。…ああ、セカンドライフもやったことないし、ゲームもやらず、たまごっちさえ挫折…という自分には入り込めない世界なのカシラ。議論もディジエント所有者同士のものがほとんどなので、立場の違う人との具体的な議論が読んでみたかった気がします。たとえば、アナと恋人のカイルや、デレクと奥さんとか。
(両方とも、パートナーが自分ほどディジエントに共感を持っていない、というシチュエーションで、意見が平行線だったということしか触れられないのですよ。まあこれはこれで、人間関係そのものへの洞察が味わえるのですが)

ただ、提示される一つ一つの「可能性」はすごく興味深いです。以前チャン氏のインタビューに対する感想で、「なぜSFでは経済という要素が切り捨てられてしまうんだろう」みたいなことを書いたんですが、今回の作品には、経済のファクターががっつり取り入れられています。(その分、「SFらしくない」という印象を持つ読者さんも多いかもしれませんが)

提示されるそれぞれの可能性が「実現してしまった場合」を、短いエピソードにしてオムニバス風にまとめたら、火星年代記ならぬディジエンツ年代記みたいで面白そうなんだけどなあ…そしたらもっと大部の本になるのになあ…とか、よけいなことを考えてしまいました。もちろん読者としては長けりゃいいってもんじゃないですが、なんかもったいない感じがするんですよ…。うーん、馴染んでいる漫画で例えますと、そのアイデア一つで何ページもドラマを仕立てられそうなのに、生(き)のまま4コマ漫画にして半ページ分にしかなってない、みたいな。(ちょっと違うか?(^ ^;))

印象に残った描写ももちろんあります。本筋には関係ないのですが、ユーザーの使うアバターが人間型に限定されてないこと。たしか、えんえんと金貨が降り続ける、という形のアバターが(ワタクシの誤読でなければ)出てきて、うわー、新鮮!と思いました。そういう人間型でないアバターを長時間着ると、感覚も変わるだろうなー、と。

泣けたシーンもあります。ジャックスたちが、遊びながら斜面ででんぐり返りをすることを覚えてはしゃぐところ。ある問題が起こって、その記憶を含む部分より前まで記憶が巻き戻されます。そうすると、体で覚えたこともなかったことになってしまう。ディジエントの本質が現れてる気がしたんですが、この要素が後半では絡んでこないのが、ちょっともったいない印象です。

あと、ディジエントは経験によってしか成熟できない、というあたりの議論。物語としてというより、自分の身に置き換えてグサリときました。

知識として知っているだけで、体験なく「わかったつもり」になってるものが、自分の脳味噌のなかでどれだけの比率を占めていることか。もしかしたら、意識しているレベルでは、実体験のデータ量より多いかもしれません。(だた歩くだけでもデータに換算したら膨大な量、という意味で考えればぜんぜん変わりますが、あくまで意識できるレベルで)
とにかく、素朴な疑問部分を含めて、自分が英語を誤読している可能性もあるので、これから翻訳を読んでみようと思います。

(間違って読んでいたら、この感想もあとでしこたま修正を入れることに(汗)なりますが、いちおう今の段階の感想を書き出しておきたかったので、邦訳読む前に書きました)

2010/11/28

新作が早くもSFマガジンに!

 昨夜、テッド・チャンの"The Lifecycle of software objects"の翻訳が今月号のSFマガジンに掲載されていると知り、今朝あわてて本屋さんに行ってきました!

S-Fマガジン 2011年 01月号  

すごいですね、表紙にどどんとお名前が。人気あるんですね。(身の回りにファンがいないのでどーもロビンソン・クルーソーな気分が抜けないのですが(^ ^;))

でもせっかくここまで英語で読んだのだし(現在kindleの表示で85%)、正直購入はどうしようかなあ、と思ってたんです。おまけに買い込んだドキュメントスキャナで一生懸命紙減らしをしているところだし・・・。たぶん早めに単行本も(もしかしたら"Exhalation"と抱き合わせで)出るだろうし、結果的に二重に買うことになっちゃうよなあ。立ち読みして、ほかになにか情報が載ってたら買おうかなあ、と、道々考えながらお店へ。

が、扉のイラストを見たとたん、あっさりレジに向かってしまいました。(笑)そうなんですよ!読んでて頭に浮かぶディジエンツはこーいうかわいいイメージなんです。マルコとポーロですね、これは♪

・・・洋書のイラストはロボットのジャックスの、わりと痛々しいイメージのイラストが多かったもので、なんか違和感あったんです。(まあ、内容的にそういう部分が大いにあるのですけど)日本とアメリカの違いってこういうところにも出るのかな。原作本と翻訳をこういう風に見比べる体験はしたことがないので、面白いなあ、と。やっぱり「カワイイ」="Cuteness" は日本の十八番ですね。ジャックスじゃなくてマルコとポーロを持ってきたところに、なんかお国柄が出ている気がします。

・・・駅前のTSUTAYAになくて冷や汗をかき、別のお店で見つけてとりあえず手に入れてほっとしました。でも作品以外に特に情報というのはないようなので、しばらくこちらはお預けにして、英文のほうでいったん読み切ろうと思います。翻訳はそのあと、答え合わせ(?)の意味で読もうかと。(誤読してるかもしれないので~(^ ^;))正直体調のせいで英文を読むのがつらくて、しばらく放置してました。持ち直してきたところでタイミングよくカツが入りましたので、改めて続きを読みまーす♪

2010/11/14

Kindleさまさま♪

 "The lifecycle of software objects"、kindleのおかげで読みやすくなりました。…kindle版が販売されてるわけでも自炊したわけでもなくて、発行元のsubterranean pressのサイトに、なぜか全文(に見える)掲載されているのを見つけたのですよ…い、いいのかこんなことして?8月に出たばかりだぞ…?(汗)

…思えばチャン氏の作品はウェブで読めるものが多いですよね。今回のなんか版元サイトで公開してるので、出版社としてどういうポリシーなのかよくわかりませんが…。アチラのSFギョーカイでは普通なんだろうか?
とにかく「いちおうハードカバーを買ってるし、い、いいよね?(^ ^;)」ということで(?)恐る恐る頂戴して、テキストファイルにしてkindleに入れました。(これが日本語の本で、千数百円出して買ったあとにネットで全文タダで読めるのがわかったら、ちょっとハラが立ったかも(笑)。今回はkindleで読めるデジタルテキストが手に入るのはありがたい!というほうが勝ってますけれど)

カーソルを置けば意味が出るという辞書機能のおかげで、ずいぶん読むのが楽になりました。 今までは机の上で本と電子辞書を広げないと読めなかったのが、寝っころがっても読める!当然、「ちょっと読もう」というハードルが低くなって、やっと「英文講読」から「読書」に近い感じになってきました。

kindleはデフォルトでは英英辞典しか入ってないので、英辞郎kindle対応版を入れました。すごく便利です。(欲を言えば、慣用句もキーボード入力じゃなくて、カーソルで選択して一発検索できるとありがたいんだけどな…)

テキストファイルは朗読機能も利くので、リスニングができればオーディオブックとして楽しむこともできます。すごすぎる!ワタクシはオーディオではまったく歯が立たない英語レベルなので、「いま読んだところを音声で聴いてみる」という英語学習のノリですが、意味を調べたばかりの単語が入った文章を音声で聞けると、なんかコトバとしての臨場感が高まるような気がします。

これまでは、こういうアプローチをするには、学習用に細工して販売されてるものを買うしかありませんでした。でもkindleを使うと、好きな作家の作品で英語学習できます。贅沢ですね。やる気が全然違うというか、学習という気分ではないです。もっとナチュラルに「知りたいことを知る」感じですね。

そういえば、英語でならただで読めるものっていろいろあるんですよね。とりあえず思いついたところで…コナン・ドイルせんせの"Through the magic door"とか、それに載ってたドイルせんせのお気に入りのマコーレーのエッセイとか…グーテンベルクを見てると、そういうものがあっさり出てくるので、さっそくダウンロードしました。
『モーリス』の作者E.M.フォースターの作品で気に入っている『果てしなき旅』(The longest journey)もあったので、こちらも。英語で読み通す覚悟はさらさらないですが(笑)、ちらっと参照できると思うとすごく嬉しいです。先に翻訳で読んだものなので、勘が働いて読みやすいですし。

話がテッド・チャンからずれちゃいましたが…"The Lifecycle..."は、「うーん、本当のライバルはジャックスだと思うぞ、デレクさん…」と突っ込みをいれたくなってるあたりを今読んでます。(読んだ方にはおわかりいただけるかと(笑))

レビューを拾い読みすると(ネタバレを避けたいのでがっつりは読んでません)、「いいことはいいんだけど…」的な、ちょっとイマイチな感想も散見されるのですが、部分的に頷けます。最近意識したのですが、これまでに読んだチャン氏の小説って地の文に魅力があるものが多いんです。(私見なのでそうは思わない方ももちろんいらっしゃると思いますが…)で、そのつもりで読むと、今回は地の文がわりと普通っぽいというか…へんな言い方ですが「普通の小説みたい」なんです。いろんなアプローチを試す方らしいので、バリエーションを増やしたという感じかもしれませんが。そのへんが「あらかじめ"チャン節"を期待している」読者からすると、肩すかしと感じられるかもしれない。「普通の小説みたいな文体って、それで充分じゃないか」、と思えないのは、これまでの作品のレベルに慣れちゃったからで、要するにもともとの評価が高い作家さんゆえの要求ともいえるかと。…レビューを書いてる方はそういう意味で言ってるんじゃないのかもしれませんが…今のところの自分の感想です。最後まで読んだら、あらためて感想を書こうと思います。

(だいたい英語で読みきったのは"Exhalation"だけで、そこからの印象ですので…あれはほんとに、ある意味詩のように感じましたから!あとは邦訳で読んだので、訳者さんのセンスのよさを原文の魅力に繰り込んじゃってる部分があるかもしれません。『あなたの人生の物語』の文体など、ほんとに翻訳した方のセンスを感じます)

*追記とリンク*
…作品テキストのページにリンク張っていいのかしら、と躊躇してたんですが、どうやらこの版元が発行してる無料のオンラインマガジンという体裁のようです。 アレコレ登録も必要なく、ホームページからクリックすれば読めちゃうので、リンク張っておきます。 慣れないと後ろめたいなあ…(^ ^;)コンテンツの使いまわしのサイクルが速いんですね。

http://subterraneanpress.com/index.php/magazine/fall-2010/fiction-the-lifecycle-of-software-objects-by-ted-chiang/
(※記事引っ越し時点ではリンク切れになっています)

 

2010/10/15

"Stories of your life snd others" Small Beer Press版到着♪

 "Stories of Your Life: And Others" Small Beer Pressバージョン、本日届きました!

これがチャン氏がアイデアと予算を出して作ったというイラストを使った表紙ですね。
文字というか数式?(私にはチンプンカンプンです(^ ^;))で人の顔ができてます。
PP貼りがピカピカです~♪嬉しいですぅ~♪(笑)

これ、じつはちょっと前にAmazonから「お届けは12月になります」とかいうメールがきてたんですが、なんだったんだろう。文句を書かなくてよかった…(笑)。

読んでいる"The Lifecycle of Software Objects"のほうの「英文講読」が、半分くらいのところでイベント準備のためにストップしちゃってるんですけど、J庭終わったら巻き返すつもりです。

とにかく今日は嬉しいので記念撮影~♪(我ながらミーハーだなー…(^ ^;))



2010/09/29

『商人と錬金術師の門』が文庫アンソロジーに収録♪ (2010/9/29)

 SFマガジンを立読みに行って、先々月あたりに座談会の形で告知されていたテッド・チャン氏の『商人と錬金術師の門』が収録されるという、時間SFアンソロジーが発売になっているのを知りました。さっそく文庫の棚に。…ありました!しかも『商人と…』は一番最初に収録されてました。これでSFマガジンのバックナンバーを探さなくとも読めるようになりましたね♪

ここがウィネトカなら、きみはジュディ  時間SF傑作選
(SFマガジン創刊50周年記念アンソロジー)
  

SFマガジン収録号は持っているので、ダブッて持っててもなあ…と迷ったんですが、他の収録作も時間をテーマにしたSFの選りすぐりということなので、購入しました。

偶然なんですが、古本屋さんでアシモフの時間SF『永遠の終わり』を見かけて、食指が動いたばかりだったんです。ただし、そこにあったものは「いくら100円でも汚すぎる…」というシロモノだったのでやめたんですが…。帰ってアマゾンを見たら、これ絶版なんですね…ううう、どっちにしろ古本で手に入れるしかないのか…。(ため息)

(余談ですが、これは高校時代にタイトルだけ聞いた作品でした。その頃親しかった「アシモフ大好き」の友達がはまりまくっていて、逆に読みにくくて読む機会を逃した、という思い出があります…(笑)。毎日学校で顔を合わせる友達だったので、万一自分が「入り込めなかった」場合、感想が言いにくいなあ、と。…身近に同じジャンルのファンがいると、かえってこういう気兼ねがあるんですよね。「もう絶対オススメ!」と太鼓判を押されると特に…(^ ^;)。どんな名作でも、突き詰めると個人の好き嫌い次第ですから…その点、面識のない人の書評やレビューでいくら褒められてても、気楽に読めるというものです(笑))

…というわけで、タイミングよく「時間SF」に食いついてしまいました。他の収録作も読むのが楽しみです♪
『商人と…』も、パッとページを見た瞬間、「SFマガジンの二段組で読んだときとは印象が違うな」、と感じました。チャン氏の作品を読むとき、「地の文」の味わいにけっこう魅力を感じるほうなので、一段組で目に入ってくると、その感じが強くなる気がします。うーん、組み方で印象って変わるもんなんですね。同人誌を作るときも意識してみよう、と思いました。(これまでは、「ページ節約のために二段組」、くらいの感覚でやることが多かったので…(^ ^;))

じつは今、あまり本を読む時間がとれないのです…。(10月末のJ庭合わせ新刊の準備にほとんどの時間を注ぎ込んでいるため)短編ならちびちびと手をつけられるかな…。でも、続きが気になってる"The lifecycle of software objects"の英文購読のほうに時間をあてたいのもあり…一日82時間くらいほしいデス…。(涙)

2010/09/16

カバーストーリー

 テッド・チャン氏のカバーストーリーが載っている『City Arts』という雑誌(?)のページをたまたま見つけました。今年の六月に出たもののようです。お話の内容は、以前こちら(Stories of Your Life and Others再版と新刊準備情報で少しふれました、Torで最初の本を出したときの攻防について…文字通り「カバー」ストーリー?(つまんないこと言ってスミマセン(^ ^;))

Cover Story Extra: Ted Chiang vs. Tor Publishing

カバーストーリーってことは表紙の写真も?ということで探したらありました。
シンプルであかぬけた表紙ですね。もったいないけどおすそ分けします…。(笑)
The cover

じつは、自分がTorのエピソードにここで触れたときは、正直「ゴシップ的な話題に食いついちゃったな私」という恥ずかしさもありましたし、「もしかしたら忘れたい過去で、ほじくり返されるとご迷惑なのかも」という憚りも感じたので、実名や参照元を明記するのは避けました。ですが、今回見つけたインタビューの内容や、あとからご本人(?と思われる署名つき)が参照先として昔のブログページへのリンクを張ってらっしゃるのを見て、大丈夫だと判断したのでご紹介します。( 私が以前たまたま読んだのは、この参照先ブログの記事でした)

(Amazonで見た限りでは、Orb Booksという発行社名で出ているものは文字だけの表紙です。Orb Books というのは、Torの再刊ペーパーバック専門の発行社名だそうです。でもその後出たらしいTor名義のペーパーバックが別にあって、その写真を見るとチャン氏発注のイラストが部分的に使われているんですよね…。なんか複雑怪奇?シロウトにはよくわかりませーん!(^ ^;))

きつい締め切りで不本意な作品を書くはめになった、というお話は初めて読みました。ヒューゴー賞のノミネーションを辞退したとかなんとか、というエピソードを小耳にはさんだことがあったのですが、これのことだったのか…納得がいくようになりました。似たような状況は商業作家さんにとってはよくあることだとも思いますし(むしろ日本では締め切りに追われてるのがステイタス、くらいの歪んだイメージが流布しているような気も…?明らかに間違ってるとは思いますが)、凡人の自分が考えると、結果オーライになってしまいそうですが…ここで引くというのはとても清々しい行為。なかなかできることではないと思います。モノを書く姿勢として、あらためて尊敬してしまいました。(しかし「不本意な作品」でもノミネートされてしまうというのが…すごすぎる…(^ ^;))

なんかいろいろ、ぜんぜん違うレベルとジャンルの話ではあるんですけど、「自分もがんばろう」と心に栄養をいただいたり。本気で私淑できる対象が増えるのは、人生のご馳走ですよね…ってちょっと大げさですが。

『Stories of Your Life: And Others 』 Small Beer Pressバージョンの表紙については、やはり推測した通りみたいです。チャンさん自身がイラストレーターを雇って作った表紙で、やっと理想的な形での刊行となるようです。10月の発売が待ち遠しくなりました。

ええと・・・読み進めている『The Lifecycle of software objects』は、現在三分の一くらいのところです。ほんとに英文講読のノリなので・・・でも少しスピードが上がってきましたです。使われる単語に慣れてきたかな?(時間さえ取れればガーッといけちゃいそうなんですが!)
今回もまた、予備知識がなかったら「作者女の人では?」と思いそうなくらい、女性キャラの心理などが共感しやすいです。そして、ヘンな言い方ですが、今までの作品より「SF小説っぽい」感じがします。(いい意味で)読了したらあらためて感想を書きます。

2010/09/02

SF大会展示ページにチャン氏よりのコメントを掲載

 [記事引っ越しにあたっての追記(2025/2/12)]

2010年の日本SF大会にて、チャンさんの"Exhalation"からインスピレーションを得た生け花作品を展示させていただきました。この回の更新は、チャン氏より賜ったコメントを元サイト内の展示記録ページに掲載した旨のお知らせで、記事はなく、タイトルから直接そのページにリンクしていました。

bloggerには該当部分のみ転載したページを設けておりますので、そちらにリンクを貼ります。

『SF、ホラーを生ける/SFいけばなの試み』( 2010/8/7~8 日本SF大会 企画展示)


2010/08/27

新刊到着♪ (2010/8/27)

 Amazonに予約していた"The Lifecycle of Software Objects"、本日届きました♪ いったん入荷日不明になったので、こりゃー初めからThe marchant and the alchemist's gateの時みたいなレア商品扱いなのかな…とあきらめていたところでした。グーグルアラートで引っかかってきたページを読んだら、日本のAmazonでは発行時の入荷自体がなかったらしいことが書いてありましたが、そうなんでしょうか…? だとしたら、ゲットするタイミングはみなさん同じなんですね。(じつは「注文したつもりだったのにしてなかった」、と気付いたのが7月だったので、自分は予約が遅かったせいで手に入らなかったのかと思ってました)


白地に二色刷り(?)のシンプルな装丁ですが、中をパラパラ見るとイラストがたくさん入ってます。これはまた、前作とは違う芸風(?)を披露してらっしゃるようなイメージです。これからゆっくり読ませていただきます。私の英語力では読みきるのにどれくらいかかるかなあ…。でもまあ、長時間楽しめるのはかえってお得かも?(笑)

2010/08/13

日本SF大会 生け花展示ご報告など

 SF大会での展示写真などを、生け花な部屋のほうにアップしました。Exhalationテーマのものと、フランケンシュタインテーマのもの二つです。もったいなくもチャンさんからいただいた、コメントのページへのリンクもつけましたので、よかったらご覧くださいませ。

生け花な部屋・SF大会企画展示  『SF・ホラーを生ける/SFいけばなの試み』
[※引っ越し時追記:リンク先の旧自サイトが閉鎖済のため、該当部分を当ブログに転載した独立ページにリンクしています] 

(チャン氏のコメントがいただけたのは、ほんとに自分には分不相応だったと思います。試作写真を見ていただけただけでも充分想定外で、嬉しい半面申し訳ないような気持ちでいっぱいでした。 (大会新参者でしたし) 

…でも、あれがあったおかげで気持ちが引き締まったのも事実です。なにか、おこがましい言い方ですが 「わかっていただけた」部分を感じて、涙が出るほど嬉しかったです。 

自分の一部にさえツッコまれていた(?)だけに、ほんとに心の支えになりました。この場を借りてもう一度、ありがとうございました! )


…さて、日記にも書きましたが、たぶん今、がっかりしているお仲間はたくさんいらしゃると思われます。"The Lifecycle of Software Objects"、Amazonに予約していたんですが、買えませんでした…。リミテッドのほうはあっというまに売り切れですね。400部限定なんて奥ゆかしすぎますですよ…。日本で手に入れられた方はかなりラッキーなんじゃないでしょうか。

版元サイトに載ってるTradeってのがよくわからないんですが…これもハードカバーのようですが、値段が載ってるので、こちらはまだ在庫があるということですよね。これから日本のAmazonに入荷してくれる可能性はあるのかしら?(どきどき)

自分はコレクターではないので、装丁とかはぶっちゃけどうでもいいです。いや、どうでもいいは言いすぎですが、とにかく物語が読めればいい。たくさん刷ってくれていますように!

USのAmazonのカスタマーレビューは当然のように五つ星ですね。(ネタバレを警戒して読んでませんが(^ ^;))ああ、読めないとなるとよけいに読みたくなりますね…。

2010/07/26

インタビュー記事と、SF大会のお知らせ

 インタビュー記事

またまたGoogleアラートが見つけてくれたものです。ちょっといろいろと立て込んだため、見つけてから日が経ってしまったのですが、けっこう長いインタビューで嬉しいです。でも、時間がなくてほとんど読めてません…しくしく。ただ、ざっと見たら「なぜ日本にファンが多いんだと思う?」みたいな話題があったので、そこは読みました。(でも、そんなことご本人に聞いてもわからないんじゃ…?)

Ted Chiang on Writing
http://www.boingboing.net/2010/07/22/ted-chiang-interview.html

とりあえず、アメリカ文化にべったり依拠した内容でないほうが、外国で翻訳されるには適しているよね、みたいなことが話されていました。あとはチャン作品と同様に日本で人気があるグレッグ・イーガンさんの作品が、アメリカではそうでもないとか。(よく並べられるこのお二人。私にはあまり似ているとは感じられないのですが)
お国柄、みたいなことがやはりあるんですかね。でも、これだけアメリカで賞を取りまくっているチャンせんせの作品が、人気がないということはないと思うんですが…。USのAmazonのレビューなんか見たときは、かなりの熱気を感じましたし。評価が高いことと、人気があることはまた別? うーん、どうも実感としてよくわからないです。

まあそれはともかく、発売間近の新刊『The Lifecycle of Software Objects』のことも最後のほうで触れられてました。楽しみですね。でも日本のAmazonから届くのは本国より少しあとになるみたいですね…お届け予定日を見るとSF大会のあとです。まあ、慌ただしいときに届くより、ゆっくり読めそうでいいかもしれません。


日本SF大会

…というわけでSF大会つながりなのですが、じつはすごいことがあったのでご報告いたします!

日記やほかのコーナーをご覧いただいている方には蛇足になりますが、いきさつから。
…今回は東京開催ということで、「もうこんなチャンスないかも?」と清水の舞台から飛び降り、同人誌販売のディーラーズ・コーナーのほかに、前々からやりたかったSFテーマの生け花展示、という場違いな企画を申し込んでいました。
二つ生ける予定なのですが、そのうちの一つがチャン先生のExhalationをテーマにしたものです。(ちなみにもう一つはフランケンシュタイン。原作じゃなくてハマー映画のほうのイメージです。もちろん(笑))

で、そのことをたまたまフロア担当の方にお話ししたら、その方が前回チャン氏の来日時にお茶会をセッティングした方だったんです。(これ自体すごい偶然です。最初は別のフロアに配置されていて、それが水を使う事情から移動になって、そのフロアに割り当てられたのです)

それで、試作写真をご本人に送っていただけるという話になり、それだけでも充分嬉しかったのですが…。 それどころか、コメントまでいただいてくださったのです。これはもう、まったく自分の手を離れたところでのことで、ひとえに担当様のおかげです。(H様、ありがとうございました!

新刊発行直前の時期に、こんな素人企画にコメントを書いていただけて、本当にありがたいと思います。チャン先生、ありがとうございました!(ってこんなとこに日本語で書いても意味がないかもしれませんが)
ありがたいやら、運を使いきったようで怖いやら…。自分にはもったいないですが、コメントに負けないように、改めて気合いをいれてがんばります。

…いただいたコメントは、生け花と一緒にディスプレイさせていただくことになっております。ご同好の方、ぜひご覧くださいませ。花なんぞ見なくてもいいですから。(笑)

正直、コメントをお願いしていただいたと知ったときは、もしいただけたとしても社交辞令どまりだろう(それでも充分嬉しいんですが)、くらいに思っていたのです。
ところが、いただいたものを読んだら、生け花の本質的な部分と、Exhalationで描かれたものとをちゃんとリンクして理解してくださってて、しかも簡潔な言葉で表現されていました。自分が展示解説に書こうとしていた「なぜ生け花でExhalationをやりたかったのか」の説明は不要になりました。生け花そのものを深いところで把握してらっしゃるのに驚いた半面、「やっぱり」という感じも、じつはします。

さきほどの「なぜ日本にファンが多いのか?」と関連するのですが…チャン氏の作品には、審美的な部分で、日本人にとって受け入れやすいものがあると思うのです。論理的な部分じゃなくて、審美的な部分で、です。たぶんそういう種類の引き出しを(たくさんの引き出しのなかの一つとして)お持ちなんだと思います。

もちろん日本人すべてが同様の引き出しを持っているわけではないし、アメリカ人にはないというものでもないので、厳密にいえば個人レベルの嗜好ということになると思います。しかも「ゼロか100か」ってものでもなくて、濃度70くらいあるとか、意識してないけど20くらいはあるとか、そういうものだと思うんです。ただ、その比率が、風土や文化の関係で日本では多いのかもしれません。

昔から、海外のものなのに、本国以上に日本で熱狂的な人気がある、というものはありますよね。たとえば…Queenとか?(昔、先輩のお姉さんがフレディ・マーキュリーの熱狂的なファンだったのをふと思い出しました…)たぶん、そういったものを羅列していっても、表面的な共通項は見つけにくいと思います。でも、思考実験としていろいろ分析してみるのはおもしろそうですね。

…話がまた横道に入ってしまいました。悪い癖です。すみません。
SF大会での展示は、
『SF・ホラーを生ける/SF生け花のこころみ』
というタイトルで、会場の5階ホワイエで行います。理系喫茶カフェ・サイファイティークさんの通路との間のスペースに、仕切りのディスプレイを兼ねてやらせていただきます。通路部分は一般の方も通れるスペースになっているので、大会に登録していない方でもご覧いただけます。(カフェ・サイファイティークにも入ることができます)カフェ側からも見られるように生けますので、白衣のメガネさんとお茶しながら眺めていただくのも一興かと。(笑)よろしくお願いします。

日本SF大会TOKON10公式サイト
→http://tokon10.net/

カフェ・サイファイティーク公式サイト
→http://scifitique.org/

大会参加詳細は当サイト内『同人誌な部屋』にございます。
変更等も、随時ここでお知らせします。
→同人誌な部屋
[※引っ越し時追記:リンク先の旧自サイトを閉鎖済のため、リンク切れです]

試作等、生け花系の写真は、当サイトの『生け花な部屋』に随時アップしております。ただいまExhalationの三つ目の試作の準備中。良さそうな花器をゲットしたので、それを試してみようと思ってます。これが大会前には最後になるかな…と思います。
→生け花な部屋
[※引っ越し時追記:リンク先の旧自サイトを閉鎖済のため、リンク切れです]

当日の展示記録については当ブログの独立ページに転載しました。以降の記事でリンクしているほか、ブログヘッドのページリストからもご覧いただけます。

2010/07/15

Ted Chiang interviewed at ReaderCon 2010 と、いまさらですが新刊告知

 またまたGoogleアラートが役に立ってくれました。Readercon 2010でのインタビューだそうです。インタビューしているのはSmall Beer PressのGavinさん。以前こちらの発行している Zine、『Lady Churchil's Rosebud Wristlet』を申し込んだとき、最初に対応してくださったのがたしかこの方でした。(Youtubeのページには書いてありませんが、アラートが拾ったのがじつはこの映像を引用しているページでして、そちらにインタビュアーが書かれていました)

→Youtube Ted Chiang interviewed at ReaderCon 2010

内容は出版とジャンルの未来について、と書いてありますが、バックの音が大きいのもあって、ほとんどワタクシには聞き取れませんでした…。どなたか聞き取れたら内容教えてください…(^ ^;)

しかしアメリカってのはほんとにコンがたくさんあるんですねえ…。うらやましいとも思ったり、でも移動が飛行機だとマメに通う人には物入りだなあ、とも思ったり。(笑)

 

…あと、こちらもだいぶ前にGoogleアラートが拾ってくれてたのですが、アップできてなかったものです。新刊についての出版社からのお知らせです。

Subterranean Press
Ted Chiang - Announcing THE LIFECYCLE OF SOFTWARE OBJECTS

(※引っ越し時点ではリンク切れです)

面白そうですね!
発売は7/31、もうすぐです。でも「今までで一番長い」そうなので、自分のペースでは解読してる間に翻訳版が出てしまうかも…と、一抹の不安が。

(しかしタイトルはソフトウェアなのに、めちゃくちゃハードウェアなイラストですね…そういう話なのかな。でもカドの感じが大河原邦生さんチックで、「三頭身のガンダム」に近い妙なかわいさが…。いや、顔がはっきりしないところはジオン系?フィギュアとか作ってくれたら売れるかも?(^ ^;))

2010/04/11

新作の予約受付

 いつのまにか、Amazonでテッド・チャンの新作『The Lifecycle of Software Objects』の予約受付が始まってました!いちおうリンクを。

→The Lifecycle of Software Objects  

7月31日発売ってかなり先ですが…。英文ではSF大会までに読み終えられないかも。ううう、翻訳だったらさっと読んで即行コピー本が作れるのに!(^ ^;)

余談ですが、「・・・objects」と聞くと、あたりまえのように「フライング・オブジェクト→UFO」と連想してしまう自分がナサケナイです。(笑)

2010/02/03

Stories of Your Life and Others再版と新刊準備情報

 アメリカの洋書の話ですが、二、三年絶版になっていたらしい"Stories of Your Life and Others"(『あなたの人生の物語』原書)が、今年10月にSmall Bear Pressから再版(というのかしら。出版社が変わりますけど)されるそうです。アナウンスはこちら。

→Small Beer Press - Not a Journal: Stories of Your Life

Small Bear Plessは、以前チャンさんのショートエッセイが掲載されてご紹介したZine、『Lady Churchil's Rosebud Wristlet』を出しているところで、日本でも著書が翻訳されている作家のケリー・リンクさん(と、たぶん旦那様?)が経営している出版社です。
今度はきっと、チャンさんの希望どおりの表紙で出るのでしょうね…。というのは、載っている画像が、チャン氏が最初のバージョンの表紙イラストがあまりにひどかったので(例の、なぞの巨人?の描いてあるもの。たしかに内容とまったく合ってなくてひどい!(^ ^;))、チャン氏が別に自費で、アイデアも出して発注したというイラストが使われた表紙だったからです。

イギリスなどではこのイラストが使われたそうですし、アメリカでもその後の刊行ではこのバージョンがあるのかもしれませんが…そのへんの出版社との攻防…(自費発注のイラストは拒否されて、「そこまで言うならイラストなしにするぞ」と言われたそうで…実際ロゴだけのバージョンが出ているんですよね。お~こわ。(^ ^;))…の印象があるので、良い状態で再版されるならほんとによかったな、と思います。

でも、そのへんを知ったときは、「泣き寝入りしない」姿勢に感銘を受けまして、見た目の「草食系」っぽさとはまったく違う、強い(でもある意味ナイーブな)内面を持ってる方だな、という印象を受けました。
(しかも相手はSFでは大手の出版社だったそうなので、よけいに…。まだ刊行一冊目の作家さんが、そういうことをするのはかなり勇気がいっただろうし、ものすごく傷ついたと思います。

…じつは自分も、ぜんぜん違うレベルですが、漫画の某大手出版社に投稿したとき、賞金の振込みを踏み倒されそうになったり(直接やりとりしていた編集者がいいかげんな人で埒があかなかったので、編集部の別の人に直接電話して解決し、それ以降はこちらから縁を切りました。もうあんなことはいやっ!(^^;))、別のところでは原稿を返してもらう約束を踏み倒されたり(こちらはそのままつぶれて音信不通になってしまったので、とうとう戻りませんでした…(怒))…とひどい目にあった経験があったもので、かなり同情してしまいました。

…水物商売はいずこも同じ…?なんてへんな割り切り方は、業界に失礼というものです。小さい出版社でも、ちゃんとしているところはちゃんとしていますから。
(ええと、ちなみに自分自身、漫画ではないですが小さい出版社の事務をしてました。著者への振込みや掲載誌・見本誌の献本発送を期日までに済ませる…みたいな「つまらない仕事」は、逆にできてあたりまえの、最低限の常識でした。著者が若かろうがお年寄りだろうが関係ありません。できてないとしたら、事務処理全般がルーズな会社だとしか思えません!会社の品格って、こういうところに表れるものではないでしょうか?)

…ちょっと激して話がずれてしまいました。すみません…。(^^;)
とにかく、すでに翻訳書で読んでいるので原書を買う必要は感じてなかったんですが、そういうこと(表紙にチャン氏のアイデアが色濃く反映されてるとか)なら、ほしくなるかもなあ…なんて思います。ミーハーとしては(笑)

(…Small Beer Pressのような、書き手が流通まで携わっているのって、なんだかいい形態ですね。同人誌のよさと商業誌のよさが両方ありそうというか。作家の立場を心得ている方が運営しているなら信用できそう、というか。もちろん、水物な出版業と、精神的にクソぢからがいる(失礼(^^;))創作業を両立するのはすごく大変なはずで(同人誌は本質的にはやってることは同じですが、人を雇って会社として経営するとなれば、社会的責任もプレッシャーも、必要な労力もまったく違います)、やってる方にとっては外野が思うほど「イイ仕事」じゃないかもしれませんし、なんにつけ「やる人次第」ではありますが…。 でもやっぱり、ちょっぴり憧れてしまいます(笑))

・・・しかし、「この本のために今100ドル払うのはちょっと待った!10月まで待って16ドル払ってくださいね!」(ちょっと意訳(笑))なんて…中古の価格がかなり高騰しちゃってるんですね。
中古でいくら値が上がっても作家さんにはまったく還元されませんから、やはり再版のほうがいいですね。読み手だって無駄に高い買い物しなくてすみますし。

あと、新刊のほうは、Subterranean Press.に原稿を渡したところ、みたいなことが書いてあるので、こちらも今年あたり出そうですね。Subterranean Pressは、たしか"The Merchant and the Alchemist's Gate"を出したところですよね。長めの話…というのは、きっと韓国で抜粋を朗読したという"The Lifecycle of Software Objects"のことでしょうね。うわあ楽しみ!でも、長めの話を原書で読む自信はないなあ…
日米同時刊行、くらいできませんか。ハヤカワさん!
(切に願います!(涙目))

2010/01/25

SFマガジン2010年3月号 テッド・チャン インタビュウ 感想

 というか、読んで頭をよぎったことをつらつらと。内容のご紹介にはなってないような。なんか散漫ですみません…。(^^;)

関係ないですが、なんで「インタビュー」じゃなくて「インタビュウ」という表記なんだろう?ワールドコンのときもそうでしたね。


*     *     *


…とくに新しいテッちゃん情報、というのは少なかったようですが、お話はどれも興味深かったです。韓国でやったという講演会、日本でもやってくれないかしら。

( …インタビューは、質問部分だけが「ですます調」に翻訳されてるので、タメ口で答えてるチャンせんせがエラそうに見えました(笑)。実際はたぶんタメ口同士のノリだったんでしょうね。(英語ですし)まあそれはどうでもいいとして…)

●ペンローズ
ほっとひと安心(?)したのが、ペンローズの主張(人間並の意識をもったAIは作れない)は正しいとは思っていない、と断言していたこと。いや、書いた作品から推測して、賛同しているはずがないとは思っていましたけれど。・・・『息吹』のインスパイア元のひとつとしてペンローズの『皇帝の新しい心』をあげていたんですが、インスパイアされたのはそのなかのエントロピーに関する議論、だけでした。
テッちゃんせんせ自身のAIについての考え方が細かく聞けなかったのは残念。どうも、そこを話すと新作のネタばれになっちゃうみたいですね(笑)。新作読むのが楽しみです。

この、ペンローズのエントロピーの議論がインタビューで出ると予告があったので、「そこんとこだけでもちらっと予習しとこうかな」と図書館で『皇帝の・・・』を借りたのですが・・・。私には「ちらっと」拾い読みできるようなシロモノではなくて(笑)、最初のほうはがっつり読むはめになりました。そのあとズルをして、結論ぽいところを読んで、あとは面白そうなところに戻って…読もうとしたんですが、結局時間切れでエントロピーのところは読めないまま返却しました。でも要旨はインタビューのほうで話してくれてるので、予習は不要でしたね。

●ここはほとんど『皇帝の新しい心』の感想です(^^;)
…『皇帝の新しい心』が読みにくかったのは、扱ってるもの自体がメンドクサイのももちろんあるんですが、(…今書くと後知恵みたいでいやなんですが)やはりペンローズの主張自体があまりなじめなくて・・・。 というか、「今のコンピューターと人間は考え方が違う」「将来、意識のあるAI はできない」イコールでない気がするんです。また一方で、「アイデアとしては可能」と「実際に作られるかどうか」もかなり別に感じられます。そこは科学技術と同時に、やっぱり経済とか、人類そのもののメンタリティーとかの話になってくると思うんですが(単純に、今の経済形態では、お金が流れこむ必然性がないとたいていのものは実現されないから)。でも経済がらみになると、SF・科学ネタの俎上には乗りにくいんですよね。経済を含んだ視野で、「意識をもった人工知能が必要とされるだろうか?」「必要とされるとしたら、どんな、どの程度の意識が求められるんだろうか?」…とか、「違う経済形態のもとではどうなるだろう」とか考え出すと、けっこう面白い気がします。

…とにかく、『皇帝の新しい心』を読んだときは、自分の興味が「人間の意識そのものについての仮説を聞くこと」にあったので、現代科学のいろいろ難しいレクチャー大会、みたいだったのが、ちょっと肩すかしな感じがしたんですね。それぞれのレクチャーが、主張の部分とどうつながるのかが見えにくくて。(肩すかしのわりにはものすごく時間かけて真剣に読まないと理解できないし(^^;))うーん、アタマのスタミナが不足でした。残念。やっぱり読むとしたら、図書館借りじゃなくて手元に置いてじっくり、のほうがいい本みたいですね。(高いけど…洋書だと安いのになあ!この高さのせいで読者にとって「へんな価値」までついちゃってるんじゃないかしら)

でも、冒頭のアルゴリズムについての解説は、二進法の暗号化(?)部分もいちいち解読しながら読んだおかげで、「コンピューターの「考え方」は人間とは違うし、コンピューターはけっして「頭がいい」わけではない」というのがすごくよく理解できました。ほかの部分も真剣に読むと得るところが大きそうなんですが、私にとっては教科書を読むのに近い感じが(^^;)。根本的に主張の違う(つまり「人間並のAIは可能」派の)別のポピュラー・サイエンスを読みだしてしまい、そっちのほうがおもしろいし扱われているトピックも最新なので、ちょっと今のところ再読はなさそうです。興味がマイクロチューブル(その後ペンローズが立てた仮説で、脳内の意識のありかとして出てくるモノ)で止まってしまいました…。

(ここではたと思ったんですが、「賢い」「人間みたいな意識をもってる」イコールなんだろうか?人間は矛盾を内包するものだから、「人間並の意識」って必ずしも「賢く」ないような気がする・・・)

●コンピューターと、今の小学校の算数
…そういえば…となぜか思い出しちゃったんですが、以前、小学生の子供がいる友人から「今の算数の教え方って私たちのころと違うんで驚いた」という話を聞きました。私たちから見ると「そんなことやったらかえって面倒じゃん!」なんですけど、聞いた印象としては、「手順の数を増やして、一つ一つの工程でやることはすごくやさしくしている」・・・という感じでした。

これって、コンピューターにやらせてることと近いんではないかと。つまり、今のお子さんたちは、「古典的コンピューターのアルゴリズム」的な考え方を身につけるように教育されているんではないかと。これを当たり前として大きくなると、彼らにとって将来コンピュータープログラムを書くのはすごく簡単なんじゃないかな。似たような「思考回路」が形成できているから。今の私たちだと、「人間型」で考えてる行程を分解して、「コンピューター型」の思考・・・アルゴリズム・・・で表現できる単位ずつにまとめていく、という面倒な翻訳作業をしている感じがします。(プログラムの経験はありませんので、一般向け書籍から得た印象ですが)

ただ、それは将来も今の「古典的」コンピューターのやり方が続くと仮定しての話。もし人間の意識のあり方がもっと解明されて、それがコンピューターに応用されれば(当然されますよね)変わるかも。あるいは「意識」と「計算」は用途としてきっちり住み分けされるのかも。
(今話題になってる「量子コンピューター」は、一般向け解説記事を読んだ限りでは、たんに「処理速度が飛躍的にあがる」だけのことで、コンピューターの「考え方」自体が変わるものではないようですよね…。もちろんこれから加えられる知識でアプローチが変わってくるでしょうけれど)

●・・・話をテッちゃんせんせに戻しましょう。
2007ワールドコンのインタビューでも言っていたことですが、シンギュラリティーを否定している、という話がまた出てきました。
(シンギュラリティーについては、Wikipediaの「技術的特異点」に解説があります)

シンギュラリティーといってもいろんなとらえ方が出来るみたいですが、これを「人間より賢い人工知能が出てきて人類は追い越される」みたいな、創作作品ではよく出てくる「おっかない」ものとして考えた場合(というか、私はそういうイメージなのですが)…それを否定しているのは、すごくの溜飲が下がります。(笑)

なにか新しい科学ネタのアイデアを得たとき・・・たとえばここで出ている例だと、「人間より賢いAI」というモチーフを得たとき・・・そのアイデアを元にして、できるだけダークで悲観的で戦闘的な、「おっかない」展開をいろいろ考えてみよう♪・・・というところで興じてるみたいなへんなバイアスを、今のSFというジャンルに感じるんです。まあ、単純に需要と供給なのでしょうが。(端的にいうとオトコノコ向けマーケット、ということがあります。真面目な未来予測とエンターテインメントは市場が違うので、そのへんは割り引く必要があると思います
・・・シンギュラリティーの「おっかない」タイプの概念も、私の目にはそのバイアスの落とし子の一つに見えます。科学の進歩や人間の進化を肯定的に描くのは時代遅れなんですね。流行といってしまえばそれまでですが、それに食傷してくると、これがなんとも窮屈に思える。中学、高校あたりではかっこよく思えましたけれど。

テッド・チャンの作品もダークな世界観のものはあるんですが、不思議とそういう窮屈さは感じません。むしろ解放感がある。視点が「今のSF」のバイアスを超えたところにある感じがするんです。仲間内でしか通じない「流行の隠語」では書かれていないというか。そのへんが、パンピーとしては取っつきやすくて好きです。そして根本的なところに理性と美、あと色気(エロ気じゃなくて)があるんですよね。(笑)

それと、発表先は考えずに書く、という話も出てきました。これは創作としては理想的・・・。たしかアメリカの作家さんはエージェントを通して出版契約を結ぶらしいんですが、話を聞いてると、チャンさんはフリー(?)なのかな。(過去のいきさつをみると理解できるんですが、そういうやりかたが可能なのかどうか知りません)
締め切りをいいわけにしない姿勢。そういうあり方があり得るんだ、というのが、とても大事な情報です。(同人イベントでさえ「締め切り」扱いしている自分のなんと情けないことよ!(^^;))

…お好きな映画の名前がまた出ていました。未見作品なのですが、自分はあえて見なかった作品でもあります…(^^;)『パンズ・ラビリンス』はなんかイタそうな話っぽいので避けてました。(やっぱり「見るのがつらい映画でもある」とおっしゃってますね)いつか心が頑丈(?)な状態のときにでもトライしてみますかね。
『ヘルボーイ・ゴールデン・アーミー』はちょっと見てもいいかな、と思ってたので、機会があったら見てみようと思います。こちらは気楽に見られそうですね。(笑)


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